JASM、3ナノ生産へ 世界的な先端半導体需要を支えるグローバル拠点へ
本記事は公益財団法人地方経済総合研究所発行「KUMAMOTO地方経済情報誌 2026年4月号」より転載しております。
TSMCは2026年2月の記者会見を開き、「JASM(TSMC熊本工場)第二工場において人工知能(AI)向けの 先端半導体の生産を検討中」とし、当初生産を予定していた回路線幅6nm(ナノメートル)を上回る3nmの製造へ舵を切る予定と発表しました。
なぜ3ナノ製造へ?
世界的に急速拡大する「AI需要」に対応
3nmは同社が台湾で2025年に量産を開始した2nmに次ぐ先端技術であり、米エヌビディアなどが開発する次世代AI半導体の中核部分や周辺回路などに使われるものです。現在、台湾内の3nm製造ライン(N3)は世界的なAI需要を背景にフル稼働状態にあり、旺盛な需要に対応すべく先端プロセスの供給網を台湾外への拡張に至ったのです。
「稼げる」先端半導体
第1工場(P1)が主力とする12/22/28nmといった「レガシープロセス」は主に自動車(電気自動車等)や家電向けに使用されますが、「レガシープロセス」の需要は鈍化しており先端プロセスほどの勢いが見られません(図1)。世界的にレガシー半導体の売上が振るわない中、同社は収益性の高い最先端領域へリソースを集中させています。熊本での3nm導入は、「需要が飽和しつつある汎用品の製造から『稼げる先端分野』を製造する拠点とする構造改革」という側面も持っています。
図1 TSMCノード別売上推移(単位:兆円) ※1台湾ドル=5円換算

台南市「Fab18」をモデルに?
現地報道によると、今回のJASMの3nm製造への計画変更は台湾南部の台南市に位置する南部科学園区(南部サイエンスパーク)の「Fab18」のバックアップ拠点となる可能性が高いと言われています。
先端半導体製造のバックアップ拠点
これまでの海外工場(アリゾナや熊本)は、あくまで現地の顧客ニーズに応えるものでした。しかし、日本国内には3nmを大量に消費する企業(IC設計企業)が限られており、日本のみならず世界的な3nm需要をカバーする「グローバル・バックアップ拠点」としての役割を担うと見られています。
TSMCの「Fab18」とは
「Fab18」はTSMCが5nmおよび3nmの量産を成功させた世界最大級の「ギガファブ(※1)」と言われています。現在P1(第一工場)からP8(第八工場)が稼働中、世界的な先端半導体需要の高まりに対応するために急ピッチでP9(第九工場)を建設していますが、今後更なる拡大が計画されており2nmや1.4nmの次世代のプロセス製造導入も予定されています。
※1 GIGAFAB(ギガファブ)とは
圧倒的な生産能力と高度な集中管理システムによって、高品質な製品を迅速に供給する体制。「スーパー・マニュファクチャリング・プラットフォーム(SMP)」として知られる集中管理システムによって調整されており、これにより、一貫した品質と信頼性、需要変動に対応する高い柔軟性、迅速な歩留まり学習と量産立ち上げ(Time-to-Volume)、さらには、より優れた機能と低コストでの製品再認定を顧客に提供。現在Fab 12、14、15、18という4つの12インチGIGAFAB®拠点を運営しており4拠点の合計生産能力は、2024年に12インチウェーハ換算で1,274万枚を超えた。
| 項目 (月間生産枚数) | Mini (~1万枚) | Mega (~2.5万枚) | GIGAFAB (10万枚超) |
| 運営コスト | 高 | 中 | 低 |
| 柔軟性 | 限定的 | 中 | 高 |
| 増産の機敏性 | 限定的 | 中 | 高 |
| サイクルタイム | 長 | 中 | 短 |
| 納期精度 | 限定的 | 中 | 高 |
台南市にある南部科学園区のTSMC Fab 18

今後の注目点は「後工程(パッケージング)」
3nmの量産開始を見据える中で、次の戦略的焦点となるのが「後工程」です。3nmのような最先端チップの性能を最大限発揮させるためには、TSMCが保有する複数のチップを高密度に連結するCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)のような、特殊な先進パッケージング技術が不可欠と言われています。一方で、前工程(ウエハ製造)だけを日本で行い、後工程のためにウエハを台湾に輸送するのは非効率であるため、日本国内での一気通貫した生産体制の構築が望ましいと言えます。現在、どの企業がどこで後工程を施すのかに関する発表はありませんが、後工程を行う周辺にも新たな産業集積が期待されるため、今後の動向が注目されます。
まとめ
JASMの3nm生産への計画変更により、熊本県が単なる地域拠点を超え世界的な3nm需要を支えるグローバル拠点へと変貌を遂げることが期待されます。また、最先端チップの性能を引き出す先進パッケージング技術の導入と関連産業のクラスター形成が実現すれば、更なる経済波及効果がもたらされます。熊本県が「世界中のAI技術を支える心臓部」として機能する日が訪れるのか、今後の動向に注目です。
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■出典
KUMAMOTO地方経済情報誌 2026年4月号「台湾だより」より
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